いま自動車業界は、ITエンジニアの採用に動いている。自動車がつながることにより、必要になったIT分野のノウハウや技術を獲得したり、課題を解決したりするためだ。どのようなスキルや経験が求められるのか、ITエンジニアにとって自動車業界はどんな世界なのか、自動車業界専門転職サイト「オートモーティブ・ジョブズ」を展開するクイック 人材紹介事業本部 自動車チーム マネージャーの大熊文人氏に聞いた。
IT人材が足りない
コロナ禍で厳しい状況の自動車業界だが、2020年7月以降は完成車メーカーの生産台数に回復が見られるようになってきた。対昨年比ではまだマイナスではあるものの、減少幅が月を追うごとに小さくなっているのだ。CASE、MaaSといった先端技術の研究開発投資も再開されているようだ。
採用については、まだ様子を見ている企業もあるが、主要メーカーを中心に動きが出始めている。大熊氏は「徐々にではあるが、採用も戻っていくのではないか」と話す。
このような自動車業界の採用状況の中で、いま、ITの知見や技術を持つ人材が求められている。「これまで自動車業界は、車の性能を高めるために、車に搭載する技術を追求してきた。そのためITに関するノウハウについては、まだ十分に持ち合わせていない。CASEという技術革新に伴ってITニーズが高まる一方、IT人材は足りないという現状がある」と大熊氏は説明する。
「コネクテッド」に関わる人材確保が急務
自動車業界が必要とするIT人材とは、どのような職種なのか。特に需要が高いのは、セキュリティエンジニア、クラウドやサーバのエンジニア、データサイエンティストの3職種だ。
セキュリティエンジニア、クラウドやサーバのエンジニアが必要とされる背景にあるのは、CASEの「C」、つまり「コネクテッド」である。車と車、車と外部のインフラなど、常にさまざまな通信が行われることで、自動運転に代表されるように、自動車はもっと便利に、安全に、快適になっていく。しかし同時に、サイバーセキュリティの強化や送受信トラブルへの対応なども必須だ。
また車載ソフトウェアが増えれば、ソフトウェアの更新が必要なケースも増えるはず。そこで、ソフトウェアの機能強化や不具合への対応などを、手間なく、迅速に行う手段として、無線通信でデータを送受信する技術「OTA」(Over-The-Air)にも注目が集まっている。
加えて、2020年6月、自動車のサイバーセキュリティとソフトウェアアップデートの国際基準が成立した。この国際基準は2021年1月から施行され、日本と欧州では、2022年7月以降に発売される新型車はこの基準を満たさなければならない。
このような状況から、セキュリティやサーバ、ネットワークインフラなどの経験を持つ人材の確保は急務となっている。多くのデータが送受信されるようになると、ビッグデータを扱うことができるデータサイエンティストも必要になってくるというわけだ。
幅広いITエンジニアにチャンス
では、具体的にどのような経験やスキルを持つ人が求められるのだろうか。まずクラウドやサーバのエンジニアとして求められるのは、システム構築や運用のスキルだ。これは、ネットワークインフラ、Webシステム、IoT、パブリッククラウドなど、多くの分野で活用されているスキルなので、IT分野での仕事経験があれば、該当する方は比較的多いのではないだろうか。しかしデータサイエンティストやセキュリティエンジニアは、あまり多くない。そのため各社とも、その分野で経験豊富な即戦力だけでなく、関連する知見や素養のある人も含めて採用している。データサイエンティストでは、機械学習の実装に用いるPythonやRといった言語の経験者、 AIや機械学習に携わった経験のある人の他、IoTや自動化に関わるソフトウェア開発の経験者も対象とされる傾向がある。セキュリティエンジニアについては、もっと対象範囲を広げていることが多い。セキュリティに関する知見を持っている人ばかりでなく、何らかのソフトウェア設計の経験がある人なら可能性がある。この職種は、さまざまな業界が必要としていて採用が難しいため、自社で育てることを前提に考えている企業もあるようだ。総じて、比較的幅広いITエンジニアにチャンスがあると言えるだろう。
最先端分野に関わることができる
ITからITの転職経験を持つ方は多いと思うが、ITから製造業、特に自動車業界への転職はイメージしにくいのではないだろうか。ITエンジニアにとって、自動車業界への転職にはどのような魅力があるのだろう。大熊氏は「相談に来られるITエンジニアは、新しい技術、革新的な技術に貪欲な方、スキルアップしたいと考えている方が多い。自動車業界に転職することで、新技術を身に付け、変化する自動車のインフラを支える存在として活躍できることは魅力だと思う」と話す。また製造業のだいご味の一つである、「有形」のものに携わることができる。UIはあるものの、ITによって提供されるサービスは基本的には「無形」だ。自動車業界でも、データやセキュリティ自体は無形だが、自分が携わった仕組みによって、自動車の性能や機能が形作られているという世界を経験できる。これは、ITとは違うモチベーションになるのではないだろうか。しかし気になるのは、自動車業界の状況だ。業績に関してあまりいい話は入ってこないが、将来性はどうなのだろう。「現時点は確かに、コロナ禍の影響で足踏み感は否めない。ただ、ITエンジニア出身者が従事する領域は、世界的に注目されている最先端の技術分野に属する。CASE、MaaSに関連する研究開発投資は、今後も継続的に行われると考えられ、中長期的には明るい業界と言える」と大熊氏。IT業界での経験が必要とされ、しかも最先端のコネクテッドカーに生かされる。自動車業界は、ITエンジニアの新たな活躍の場所になりそうだ。

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